建て替え決議の要件緩和/法制審要綱案
法制審議会部会の要綱案ポイント
・マンション建て替え決議の要件を現行の「所有者の5分の4の合意」から条件付きで緩和。
耐震性不足などの問題があれば4分の3に
・大規模災害で被災したマンションの取り壊しや敷地売却は、
5分の4の合意要件を一律で3分の2に引き下げ。
決議可能な期間を延長
・建て替え決議などで「所在不明の所有者」を除外。
日常的な管理では、住人集会に参加しない「無関心な所有者」も除外
法制審議会部会の要綱案ポイント
・マンション建て替え決議の要件を現行の「所有者の5分の4の合意」から条件付きで緩和。
耐震性不足などの問題があれば4分の3に
・大規模災害で被災したマンションの取り壊しや敷地売却は、
5分の4の合意要件を一律で3分の2に引き下げ。
決議可能な期間を延長
・建て替え決議などで「所在不明の所有者」を除外。
日常的な管理では、住人集会に参加しない「無関心な所有者」も除外
師走に入り、お忙しいところ
本日の山陽新聞朝刊に「逗子崩落事故の裁判」に関し
記事が掲載されていましたので、お知らせいたします。
「遺族側と区分所有者側との間で、1億円の損害賠償での
和解が成立したことも付け加えられています。」
NPO法人岡山県マンション管理組合連合会(岡管連)
管理費等の滞納者に対する督促業務について、管理会社が行う期限が規定されています(注)。
また、弁護士法72条により、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁じていますので、管理会社が行えるのは滞納状況の通知等の事実行為にとどまります。
東京地裁の判決では、「滞納に関して管理会社が負っている業務内容は、管理委託契約書では督促等の通常業務に限られ、長期滞納者の扱いを無償で補助する業務までは認められない」として、管理組合の管理会社に対する請求を棄却しています。
したがって、どの範囲まで管理会社が行い、どの範囲から管理組合として対応すべきかを確認しておくことが大切です。
(注)標準管理委託契約書 第10条
乙(管理会社)は、・・・出納業務を行う場合において、甲(管理組合)の組合員に対し・・・管理費、修繕積立金、使用料その他の金銭の督促を行っても、なお当該組合員が支払わないときは、その責めを免れるものとし、その後の収納の請求は甲が行うものとする。
管理組合の会計担当理事が、19年にわたり、管理組合の預金(1億円を超える)を横領、着服した事件の判決では、管理組合の会計監査役員について、会計担当理事が作成した前年度の収支決算報告書を確認・点検し、会計業務が適正に行われていることを確認すべき義務があったにもかかわらず、虚偽の決算報告書の記載と偽造した残高証明書の残高を確認するだけで、本件預金口座の通帳を確認しなかったことは、会計監査役員として善管注意義務違反があったと認めざるを得ないとし、会計監査役員の責任を認めました。
また、理事長についても善管注意義務違反とし、その責任を認めました。
一方、自主管理に協力しない管理組合の構成員(組合員)にも責任があるとして、過失相殺の法理の類推によって損害額の1割を連帯して賠償する責任を会計監査役員及び理事長に賠償額として科した。
マンション管理・再生の問題はまだ残されています。
管理不全の原因は供給時の設定にあるものが少なくありません。
よって供給時から管理適正化の推進のため、行政がより関与し推し進めることが必要です。
さらには管理不全マンション改善への専門家の活用や資産価値を活用した高齢者の居住の安定策を実現する再生手続き等の確立も必要です。
今回の法改正ですべてのマンション管理・再生問題が予防・解消できるわけではありませんが、行政の関与の強化と、市場の利用の推進と、マンション管理に関する関係者が新たなステージを踏み出すことになります。
そして、今後は「がんばれない」マンションを絶対に作らない体制をみんなで創ることが必要です。
(著)横浜市立大学 国際教養学部 教授 齋藤 広子
(1)Y社は、A管理組合との間で遠隔管理業務契約を締結し、警報信号を受信した場合には、警備業法で
設定された時間(東京都区内では25分)内にパトロール員を派遣し、必要と認める措置を執ることを
約し、Aマンションの入居者に対しては、このような24時間の監視により異常事態に備えていると
説明して安心感を与えていたのであるから、Aマンション入居者との関係でも、緊急出動義務を負って
いたというべきで、故意・過失により義務に違反して入居者に損害を発生させた場合には、不法行為
責任を負う。
(2)ところが、Y社の履行補助者である警備会社の警備員は、上記契約に違反して1時間5分後にようやく
Aマンションに到着した。当日は豪雨で、他のマンションからも警報信号が出ていたとはいえ、過去6年
間には、もっとひどい豪雨のときもあった。それでも6年間水没が生じなかったのは、Y社が土嚢を積む
等の対応をしていたからであった。本件の豪雨に際しても、もっと早く現場に到着し、土嚢を積む等の
対策をしていれば、事故は防げたと考えられる。しかも、Y社が管理している他の350棟のマンション
ではここ10年間冠水事故が発生していないのだから、唯一平成16年に冠水被害のあったAマンション
を優先して対応すべきであった。なすべき対応をしなかったY社にはXに対する不法行為責任が認めら
れる。
(3)遠遠隔管理業務契約上の免責規定では、不可抗力の場合にY社は賠償責任を免れると定められている
が、本件は不可抗力によって発生したものではない。また駐車場賃貸借契約や管理委託契約における
免責規定は本件とは無関係である。したがってY社は免責されない。
(4)もっとも、Xも、以前に冠水事故に遭い、警備会社の到着が遅れることもあると経験済みだったのだ
から、大雨の恐れがあるという天気予報を受けて、出勤前に自動車を移動させる等の対策をとるべきで
あった。したがって、1割の過失相殺をすることが相当である。
(著)近江法律事務所 弁護士 鳥居 玲子
駅前等都市中心部のマンションでは当該敷地が十分に取れないため、機械式駐車場が増加傾向にあるが、機械式駐車場の場合、 次の七つのリスクを指摘しておきたい。
一 維持管理に相当な費用が掛かる。
二 駐車場収入は管理費に組入れるところが多い。
三 大がかりな改修をする場合、修繕積立金から支出。
四 子供の事故が発生している。
五 住民が高齢化してくると車に乗れなくなる。
六 地下ピットの場合、大雨で水没の可能性がある。
七 耐用年数は15年~20年程度。
東京都内に所在するAマンションでは、地下ピットに自動車を収納するタイプの機械式駐車場が設置されていた。
Aマンションの区分所有者であるXは、Aマンション管理組合との間で駐車場の地下ピットの賃貸借契約を締結し、使用していた。
この賃貸借契約には「天変地異その他の事由により滅失・毀損等の損害を生じても、管理組合は借主に損害賠償その他の責任を負わない」旨の規定があり、駐車場使用細則にも同様の定めがあった。
管理会社Yは、A管理組合との間で管理委託契約を締結し、マンション管理業務を行っていた。
管理委託契約における管理対象部分には駐車場も含まれていたが、台風や集中豪雨の災害による損害については、Y社は賠償責任を負わないという免責規定が置かれたいた。
平成22年9月に、大型台風が上陸し、Aマンションの駐車場地下ピットが浸水した。
「駐車場排水槽満水」の警報信号がY社の委託した警備会社に通報されたが、警備員がAマンションに到着したのは1時間5分後で、既に水が地面から10センチの高さにまで到達しており、地下ピットの車は完全に水没していた。
Xはやむなく車を廃車にした(Y社とA管理組合との間で遠隔管理業務契約を結んでおり、警報信号がY社の指定する警備会社に通報された場合、受信後直ちにYまたは警備会社のパトロール員がマンションに臨場して応急処置を行うことが定められている)。
このため、Xは、Y社を被告として、水没した車の時価相当額の賠償を求める裁判を起こした。
(著)近江法律事務所 弁護士 鳥居 玲子
東京地判平成29年3月31日の判断は、外壁などに取り付けられた石材の落下に関するものですが、一般により多く見られる事故は、タイルの落下です。
タイルの落下事故は報道される案件だけでもかなりの件数に上りますし、人身事故に至ってしまったケースも珍しくありません。
多くの事故発生に伴って、訴訟に持ち込まれ、争われることも多くなってきました。
このような状況の中で、タイルの落下事故の責任に関する論文が公表されています(高嶋卓判事「外壁タイルの剥離と施工者の責任」判例タイムズ1438号49ページ。以下「高嶋論文」)。
高嶋論文は、裁判官によって著された文献であり、外壁タイルの工法や仕組み、外壁タイルの浮き・剥離の原因を検討した上で、施工技術の変化などの社会情勢を踏まえ、最判平成19年7月6日(注)の分析などを行っています。
外壁のタイルや石材などが落下することのないように保持することは、建物の安全性における基本的な要因です。
建築基準法上の定期検査においても、施工後または外壁の全面改修をしてから10年を経過したときに、全面打診の実施義務が課されるなどとされています。
外壁の安全性確保は、マンション管理における要諦の一つです。
管理組合において、十全の配慮をしなければなりません。
「建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(設計者等)は、契約関係にない居住者等に対する関係
でも、当該建物に建物 としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負ってお
り、・・・・以下略」
5 相手との解決に向けた管理組合の合意形成
これで一件落着とはいかないのが、構成員が多数で多様な意見を持つ管理組合の特徴です(ちなみに、
役員の方は、自身に責任があるためか、解決に向けて相手方に必要以上の譲歩をする傾向にあります)。
すなわち、相手方と紛争解決のための合意をする前提として、総会決議が必要ですが、この種の事案で、
いきなり総会に諮っても、各区分所有者に議案の持つ意味を正確に理解してもらうことは期待できない
ので、総会に先行して区分所有者を対象とした説明会を開催します。
説明会では、まず、調査報告書を作成した建築士に調査結果の説明をしてもらい、次に、ゼネコンから
の謝罪(区分所有者に溜まった不満のガス抜きという意味合いが大きい。)と今後の対応の説明をしても
らいます。その後、ゼネコン担当者には退出してもらい、私が法律的な説明をしますが、その際、区分所
有者から「売買代金全額での買取りを要求する。」「1人当たり慰謝料として最低500万円は欲しい。」
などといった、過剰な要求が出されます。これを捌いていくのが私の大きな仕事で、相手方との合意が成
立しなければ、裁判をするしかないが、その場合には、買取りや高額な慰謝料などは認められることはな
く、かえって裁判を起こすのに費用がかかってデメリットが大きいことを説明し、納得してもらうのです。
(著)弁護士法人札幌・石川法律事務所 弁護士 石川 和弘
3 不法行為による損害賠償請求
不法行為に基づく損害賠償請求権は、完成・引渡し後20年を経過していない場合であって、かつ、瑕疵
の存在を知ってから3年以内であれば、法律の規定により、権利行使が可能です。
瑕疵の内容が「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」である場合であって、かつ、設計者、施工者ま
たは工事監理者に注意義務違反があれば、損害賠償請求できることになります。
管理組合役員としては、①共用部分の瑕疵が発見されたのが築後10年を経過した場合であっても、権利
行使できる可能性があること(すぐに諦めないこと)、②その場合、権利行使の相手方は、瑕疵担保責任の
追及の場合と異なり、売主たる分譲業者(デベロッパー)ではなく、施工者(ゼネコン)または設計・監理
者であることを押さえておく必要があります。
4 建物瑕疵の存在の調査と確認
-略―
(著)弁護士法人札幌・石川法律事務所 弁護士 石川 和弘