損害賠償請求事件:東京地裁平成27年3月30日
本件は、昭和46年に竣工したマンションでは、費用対効果を図る目的で、昭和51年に「マンション自治会」の名称で、権利能力なき社団としての管理組織を設立して自主管理を始め、その後、現在の管理組合法人(原告)が、その権利義務を承継しています。
本件マンションでは、当初より長年にわたり、固定された会計担当理事一人が管理団体の預金通帳と印鑑を所持し、会計業務と出納業務を兼任できる状態であったため、管理組合の預金から多額の金銭を横領し続けて未返還金残額が5,000万円以上もあるところ、既に刑事事件でも処罰され支払い能力を失っているため、当時の理事長、副理事長、会計監査役を共同被告として、理事としての善管注意義務違反を理由に損害賠償請求を求めたところ、理事長および会計監査役員に対してのみ、過失相殺の法理の類推によって責任を1割に減じて、連帯して485万1,468円及び464万1,300円に対する遅延損害金の支払が認められました。
コメント
本件の理事長、会計監査役の責任について非常に厳しいようにも思われますが、責任根拠は、職務執行上の「付随義務」違反を理由としているものであり、通常の職務遂行上不可欠とされる程度のチェック行為をしていれば、このような多額の横領が防げていたことによるものです。
また、過失相殺の法理を類推して、その責任範囲を1割に減じている点も注目されます。
(著)創価大学法科大学院教授・弁護士 花房 博文
(岡管連から)
今後、以下の点を管理組合として検討する必要があります。
・理事の人事が長期固定化したため、理事の成り手が育っていない。
・「マンション自治会(管理組合)」は町内会など親睦的団体である『自治会組織の面』と、マンションの
維持管理を行うため法的措置を与えた『金銭管理団体の面』の2面性を持っているが、このことについて
区分所有者は無関心であった。
・管理費等回収不能額4,500万円以上は、最終的には区分所有者全員が負担せざるを得ないことになる。
・組合通帳とその印鑑の管理が、一人の会計担当が担っていた。
・管理組合と組合員の間で訴訟に発展したため、組合員同士の中が気まずくなる恐れがある。