管理基礎講座

 都市部での機械式(立体)駐車場の利用者の減少は、管理組合の運営上大きな問題となってきている。その主な要因は、都市部における入居時のマンションの駐車場確保の必要性と、その後のマンション居住者の高齢化に伴う車離れである。

 マンション販売業者は都市部において、販売政策上、駐車場が多くある方が売りやすいため、過度に機械式駐車場を設置してきた。それがここ最近、機械式駐車場は、維持管理に多額の費用がかかり、長期修繕計画にも影響が大きいとの認識が広がり、自走式の駐車場に変更する管理組合が出てきた。

 一方、マンションの資産でもある駐車場設備の廃止は、資産価値が落ちるという側面もあり、特に駐車場契約者がいる場合などは、その対策も必要になってくる。

 また、この空き駐車場の問題を管理組合の運営上の観点から見ると、大きな支障をきたすことにもつながる。つまり、ほとんどの管理組合では、駐車場収入は管理費会計に組み入れられ、管理組合によっては、管理費予算のうち約半分程度は駐車場収入が占め、駐車場収入がなければ管理組合の予算が組めないところもある。

 それに加えてもう一つの大きな問題として、機械式駐車場の場合、そのメンテナンス等の維持管理費用が多大にかかることにある。ところが、その維持管理費用の負担の出所はというと、意外に知られていないが『修繕積立金会計』からである。さらに言えば、機械式駐車場には、長期修繕計画に『更新時期』も設定されており、これではますます修繕積立金が枯渇してくるであろう。

【管理組合へのアドバイス】

 特に機械式駐車場がある管理組合の場合、上記で述べたようにその維持管理費用及び更新費用の負担をどこで賄うかを考える必要がある。

 駐車場に関する会計処理は、現状、その収入は管理費会計に繰り入れ、その支出は修繕積立金会計からであり、収入と支出の間に一貫性(関連性)がないのが、管理組合では一般的であろう。それでは将来的な見地から言えば、適正な管理組合の運営ができない。

 本来あるべき姿として、駐車場会計は、管理費会計及び修繕積立金会計から独立して、『区分経理』しなければならない。そうすることで次のことが見えてくるだろう。

 例えば、空き駐車場問題をそのまま放置してよいのか、その対策をとるべきか、または機械式駐車場そのものをどうするか、管理費会計及び修繕積立金会計との関係はどうあるべきかなど、管理組合としても真剣に取り組まざるを得ないだろう。

 管理組合が受け身でいると、時間が経過すればするほど事態は悪化していくであろう。

 

| 2014年7月29日 | カテゴリー 管理基礎講座 

【旧区分所有者が有する債務】

 区分所有権の売買等に伴い、特定承継人が旧区分所有者の有する債務の支払義務を負うかどうかの問題になる例として、区分所有法上の規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権で、その具体例は各組合員に対する管理組合の債権、つまり、規約又は総会の決議で各組合員が負担すべき管理費等や大規模修繕のために一時負担金等について定めた場合のこれらの支払請求権などです。

 このほか規約で、区分所有者の義務違反行為について定めた場合の違約金支払請求権もこれに含まれます。

 

【専有部分内の水道料金の債務】

 マンションの水道料金については、専有部分及び共用部分を含めた水道料を自治体の水道局と管理組合とが大口契約を締結しているところがよく見受けられます。これは、個別契約と比べて大口契約の方が水道料が低く抑えられるのと、水道局の方も個別契約に比べて、大幅に事務負担が抑えられることにあります。

 しかし、この大口契約は、本当に管理組合にとって、メリットがあるのでしょうか?

1 水道局との大口契約 

 ・大口契約の水道量には、共用部分の水道量と専有部分の水道量からなり、水道局には、全体の大口

  契約の水道料金を払っている。

 ・各戸のマンションには、管理組合が各戸の水道メーターから按分計算した金額を請求している。

  したがってよくあるのが、管理組合の管理費会計の勘定科目として、水道料が収支の両方に存在し

 ている。これも不思議である。

  本来、専有部分の水道料金の徴収は、共用部分の管理から生じたものではなく、管理組合の業務で

 はない。その分、管理組合の事務負担となっている。

2 区分所有者が水道料金を滞納した場合

  そこで、区分所有者の一人が水道料金を滞納した場合はどうだろうか?

(1)管理組合が負担

  その場合、滞納者の水道料金は管理組合が負担することになるが、だからと言って、滞納者の水道

 をストップすることは、判例上できない。

  また、水道料金の徴収について、規約、細則等に明記していない場合、裁判を提起しても敗訴する

 可能性がある。

(2)水道料金の滞納額は特定承継人に承継されるのか?

  判例では、『専有部分の水道料金は、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響

 を及ぼすものではないから、特段の事情のない限り、規約で定め得る債権の範囲に含まれない。

 と、特定承継人の責任は否定されている

| 2014年6月15日 | カテゴリー 管理基礎講座 

【管理組合の対応】

 では、現在すでに屋上に携帯電話基地局を設置させて賃貸収入を得ているにもかかわらず、税務申告及び納税を行っていない管理組合はどのような対応をとるべきでしょうか。

 まずは、管理会社や公認会計士・税理士に相談することはもちろんですが、ここで注意しなければいけないのは、『申告・納税をしないという選択肢はない』ということです。すでに収入を得てしまっている以上、納税の義務は発生しています。これは収入金額の多寡には関係ありません。

 さらに、法人税の時効は原則5年(脱税の場合は7年)ですので、過去5年間にさかのぼって申告する必要があります。この時課税されるのは法人税、法人住民税、法人事業税ですが、申告期限を超えての申告となりますので、さらに無申告加算税、延滞税が課税されます。また、基準期間(前々事業年度)の賃貸収入の合計が年間1,000万円を超えていれば消費税及び地方消費税の対象になります。

 なお、税務調査があって指摘されたらその時にすればいいとか、管理組合に税務調査が入ったという話など聞いたことがないから大丈夫だろうといったことをお考えの向きもあるかもしれませんが、携帯通信各社は『支払調書』というものを税務当局に提出しています

 これには基地局の賃借料をいつ、どこに、誰に、いくら支払ったかということが記載されています。すなわち、税務当局はどこの管理組合にいくら賃借料が支払われているかということをすべて把握しており、当然その管理組合が税務申告をしているかどうかも調べれば即座にわかる状況にあるということです。逆に、今税務調査が来ないのは、周知を図っている期間であって、自主的に申告することを待ってくれていると考えるべきです。

 本来の申告期限(通常は事業年度終了の日から2カ月以内)を超えて申告した場合は、無申告加算税というペナルティが課されます。税務調査を受ける前に自主的に申告すれば納税額の5%が上乗せされるだけで済みますが、税務調査で指摘された場合は納税額50万円までが15%、50万を超える部分については20%となります。また、納付期限までに納付されない場合には、原則として法律で定められた期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が自動的に課されます。

 管理組合にとっては非常に大きな支出になりますが、かといって申告せず税務調査で指摘された場合の理事長はじめ役員の責任の問題といったことも考慮の上で、速やかに申告・納税を行うことをお勧めいたします。

               (著)小川公認会計士事務所 公認会計士 小川 聡

(岡管連から)

 管理組合の携帯電話基地局収入の『税務申告・納税義務』に関して、2回にわたり掲載しました。

 税務の問題は、一見すると管理組合には関係ないと考えられますが、契約等により第三者との間で取引を行い、その結果として対価を受け取る場合、税務処理を行う必要性が出てきます。

 税務の問題は携帯電話基地局収入に限らず、例えばマンションの屋上に、今はやりのソーラーを設置し、『太陽光発電」』で得た電力を電力会社に売電した場合も同様であります。

 税務処理に当たって、管理組合の経理も適正、かつ透明に行う必要があります。その場合、管理組合としては、以下の点に配慮を要するでしょう。

① 事業収益と非事業収益とに分ける。

② 非事業収益については、『管理費会計』、『積立金会計』、「その他駐車場会計」の

  区分経理を行う。

③ ①及び②について、管理規約等に明記する。

  特に事業収益については、税務処理について明記し、その税務処理後の収益を

  どのように処理するかを明記する。

 携帯電話基地局にしろ、ソーラー設備にしろ、外部から見えるものです。税務当局にも目につきやすく、かつ①~③を行っていなかった場合、思わぬ納税を課される場合もあることも付け加えておきます。

| 2014年1月15日 | カテゴリー 管理基礎講座