災害等への備え

マンションに必要な「防災隣組」と「互近助」

防災対策は「互近助づきあい」

 半年後、通報・初期消火・避難誘導に功績があったとして、居住者5人に神田消防署長から感謝状が贈呈されました。

 翌月、「緊急防災研修会」の講師として私が招かれました。

 その時に「『互近助の力』を実践された皆様に心より敬意を表します」というと、会場から大きな拍手が沸きました。

 フロアごとに「防災隣組」をつくり、お互いに近くで助け合う「互近助」の大切さを言い続けてきた私にとって、こうした成功事例は極めて嬉しい出来事でした。

 そのとき私が提案した「回覧板を手渡しで」も、さっそく取り入れてくれました。

 従来は掲示板に貼ったり、ポストに入れたりしていた告知文書を、フロアごとに回覧板にして手渡しすることになったのです。

 隣近所の絆を深めるため、回覧板で日常的に声を掛け合い顔なじみになるようしたいとおっしゃっていました。

 都会は隣人との付き合いが希薄と思われがちですが、地域によっては地方よりも熱心に安全・安心なコミュニティづくりに取り組んでいる町内会もあるのです。

 超高齢化社会、マンションでも普段の見守りや安否確認、そして災害後のスムーズな復興のためにも「互近助」と「防災隣組」の推進が必要です。

 管理組合が主導し、住民の意識啓発、気持ちよい挨拶のできる「互近助づきあい」を図るべきではと考えます。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月13日 | カテゴリー 災害等への備え 

マンションに必要な「防災隣組」と「互近助」

ご近所の力で延焼を食い止める

 その日、朝8時半頃火災報知器のベルが鳴りました。

 住民たちは非常放送で20階からの出火を知ります。

 ドアを開けると、20階から上の階の窓の外や吹き抜けに煙が充満していました。

 炎は窓から吹き出し上階のバルコニーへと延焼しそうでしたが、上階の住民が機転を利かせ段ボール箱など燃えそうなものは全部室内に入れます。

 火元に駆け付けた住民たちは、訓練通り姿勢を低くし消火器、消火栓を使って初期消火にあたりました。

 周囲の人たちが119番通報し、ドアをたたいて住民全員の避難誘導を行いました。

 避難場所は「ご近助まつり」会場だったので避難しやすかったと言います。

 短時間に避難が完了し安否確認もスムーズにできたそうです。

 消防隊が駆け付け連結送水管による消火活動が開始されるまで、住民たちの消火活動が続けられた結果、上階や隣接部屋への延焼を食い止め、出火した1部屋だけの焼失に止めることができたのです。

 これこそお互いに近くで助け合う「互近助」の力です。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月11日 | カテゴリー 災害等への備え 

マンションに必要な「防災隣組」と「互近助」

「ご近助」祭りで防災意識を醸成

 現場でマンションの自治会長から声をかけられました。

 「先生!みんなが協力して大事に至らず済みました。これも先生の教えを実行したからです」と礼を言われたのです。

 面はゆい気持ちで話を聞くと、千代田区主催の防災講演会でマンションの役員さんたちが私の講演を聞いたそうです。

 その時、「防災は自助と『ご近所(互近助)』が大切」という話に共鳴し、さっそく春と秋のイベントに「ご近助」を取り入れたそうです。

 チラシには「ご近助祭り」と書かれ、マンション前の西神田公園で炊き出しやバザーを開いているとのことです。

 ご近助祭りのテーマはずばり「防災」です。

 そして、集まった人たちには、次のような質問票が配布されます。

♦防災井戸、知ってますか?

♦テント、建てられますか?

♦発電機、起動できますか?

♦消火器、消火栓、使えますか?

 質問票に知らない、できないにΟをつけた人には、「はい、こちらへどうぞ」と役員たちが消火栓や消火器の使い方などをレクチャーをしてくれるそうです。

 「このご近助祭りが、あの火災の時に役立ったのです」と自治会長がおっしゃいます。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月09日 | カテゴリー 災害等への備え 

目標は「東京五輪を新居で見る」

住民の団結と適切な行政支援により建替え

 地震後の2か月後、熊本市から5棟全棟に「全壊」の罹災証明が発行されました。

 理事会と復興特別委員会は専門家の意見を交え、復興か建替えかを年内に方針を決めるという目標で検討を開始しました。

 そして、地震から8か月後に区分所有者97%の賛成により建替えの方針が承認され、その約半年後の翌年9月には97%の賛成により建替え決議がなされました。

 そして地震2年後には公費解体が完了したのです。

 復興再建される新マンションは総戸数184戸、従来の戸数を倍に増やすことによって、現在の区分所有者の経済負担を軽減しました。それもバリアフリーや防災面にも配慮した、全戸南向きの明るいマンションです。

 「東京五輪を新居で見る」を目標に、2020年夏の竣工を目指して工事が急ピッチで進められています。

 これほど驚異的スピードでかつ計画的に被災マンションの建替えができるようになったのは珍しい事例です。

 管理組合を中心とした住民たちの日頃からの結束力と、管理会社との信頼関係があったからだと思います。

 アドバイザーの1人は「ひとえに住民同士が日頃から培った絆と団結力、そして適切な行政の支援が受けられたから」と述べています。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月07日 | カテゴリー 災害等への備え 

目標は「東京五輪を新居で見る」

良好なコミュニティで復興へ取り組む

 地震後、管理組合の緊急理事会で、管理会社に被害状況の確認と応急対応を依頼しました。

 そして3週間後には、建築関係に詳しい住民を含めた復興特別委員会を立ち上げました。

 メンバーは6名です。

 国交省のマンション管理適正化交付金を活用し、住民だけではなく、必要な情報収集のために建設会社などのアドバイザー3社を選定し、その支援を受けることにしました。

 これが早期復興に大きな役割を果たしてくれたのです。損壊の程度、罹災証明申請時の判断基準、復興に係る関連法令など、一般人では分かりにくいものを分かりやすく説明し、資料を提供してくれたのです。

 そして、週2回のペースで理事会と復興特別委員会を開催しました。

 対応が迅速にできたのは避難先や連絡先を専用掲示板に書き込んでいて、区分所有者98名全員の所在が早い段階で明らかになっていたからです。

 これは、住民同士の横の連携や信頼関係が構築されており、良好なコミュニティができていたことを物語っています。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月05日 | カテゴリー 災害等への備え 

難航した熊本市の被災マンションの住民合意

改正被災マンション法の適用

 全壊建物は公費で解体することができます。地震から1年半、公費解体を熊本市に申請した被災マンションは18棟です。

 そのうち約半数の8棟が所有者の合意形成ができず、解体の見通しが立たなくなっていました。

 被災建物の解体は民法上、所有者全員の同意が必要ですが、政府は熊本地震に被災マンション法を適用しました。

 被災マンション法とは、東日本大震災などを教訓として平成25年6月に一部改正された法律です。

 改正被災マンション法では所有者の5分の4以上の多数決で取り壊し等ができるようにしたものです。

 それにより一定以上の資産価値を失ったマンションは、所有者の8割以上の同意で解体できることになったのです。

公費解体と住民同意

 申請のあった18棟のうち2棟が解体完了、8棟は住民同意の目途が立ちました。

 しかし、4棟は被災マンション法に基づく合意に至らず、他の4棟も家財道具処分に関する同意が得られず調いませんでした。

 全壊した築43年7階建て分譲のAマンションの管理組合の役員さんは、公費解体できなかったことに無念さをにじませながら、「普段の人間関係や結束力の有無が、結局こういう時に影響するんですね」と述懐されていました。

(著)防災システム研究所 所長 山村 武彦

| 2019年10月03日 | カテゴリー 災害等への備え 

相  談

 災害発生に備えて入居者名簿を作成したいと思います。

 個人情報保護法改正により管理組合も個人情報取扱事業者となりましたが、名簿作成にあたってどのような点に注意すればよいでしょう。

アンサー

会員名簿を作るときの注意事項(平成29年5月 個人情報保護委員会)

① 個人情報を集める前は、個人情報の利用目的をあらかじめ特定する。

② 本人から個人情報を集めるとき、本人から書面で個人情報を取得する場合には、本人に対して利用目的

  を明示する。

③ 個人情報を保管しているときは、集めた個人情報の漏洩防止のために、適切な措置を講じる。また、

  集めた個人情報の内容に誤りがあった場合に、訂正するための手続きの方法等を本人の知り得る状態

  におき、請求に応じて訂正する等としています。

岡管連から

 マンションの個人情報保護の対象者はマンション住民であり、その個人情報を取り扱うのは管理組合であり、管理会社ではありません。

 もし当該個人情報が管理会社の管理下に置かれていた場合、管理組合は緊急事態の発生時、どう対応するのでしょうか。

 安否確認等は、管理会社が行うのでしょうか? また個人情報保護を含めたそのような委託契約になっているのでしょうか。

 管理組合としても、マンション住民から問い合わせ等があった場合、すべて管理会社に一任していると回答するのでしょうか。

 マンション住民の個人情報の保護管理は、あいまいな状態に置かれているといっても過言ではないでしょう。

 特に、災害等が発生した場合、管理会社もすぐに動くことは不可能です。

| 2018年12月25日 | カテゴリー 災害等への備え 

相  談

 台風や大雨などにより共用部分等に被害が発生した場合、復旧工事の実施や工事費支払いのための修繕積立金取り崩し等について、総会の承認を得なければならないでしょうか。

 災害発生時には臨時総会を招集する余裕はありませんので、こうした緊急時には理事会決議で実施することはできないのでしょうか。

アンサー

【災害等緊急時の管理組合の意思決定について】

1 理事会の決議事項の見直し(標準管理規約)

  (議決事項)

  第54条 理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。

   (一~九略)

   十 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等

  2 第48条の規定にもかかわらず、理事会は、前項第十号の決議をした場合においては、当該決議に

   係る応急的な修繕工事の実施に充てるための資金の借り入れ及び修繕積立金の取り崩しについて決議

   することができる。

*管理規約にこのような規定を設けておくことにより、災害等緊急時に総会ができないない場合には理事会で応急的な修繕工事の実施を決議することができます。また、当該工事の費用に充てるための借入れや修繕積立金の取崩しについても理事会で決議することができます。

2 理事長の権限の見直し(標準管理規約)

  (敷地及び共用部分等の管理)

  第21条

  1~5

  6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに敷地及び共用部分等の必要

   な保存行為を行うことができる。

  (敷地及び共用部分等の管理)

  第58条

  1~5項 略

  6 理事長は、第21条第6項の規定に基づき、敷地及び共用部分等の保存行為を行う場合には、その

   ために必要な支出を行うことができる。

| 2018年12月23日 | カテゴリー 災害等への備え 

相   談

 理事会では、災害発生等に備えるために、管理組合として取り組むべき防災対策を検討するための防災対策検討専門委員会を設置する予定ですが、防災に係る業務は管理組合の業務なのですか。

アナウンス

標準管理規約より

第32条(管理組合の業務)

 管理組合は、建物並びにその敷地及び付属施設の管理のため、次の各号に掲げる各業務を行う。

一~十一、及び十三~十五 略

十二 マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務

マンション管理標準指針より

(標準的な対応)

① 防火管理者の選任

② 消防計画の作成及び周知

③ 消防設備等の点検

④ 災害時の避難場所の周知

⑤ 災害対応マニュアル等の作成・配布

⑥ ハザードマップ等防災・災害対策に関する情報の収集・周知 など

(望ましい対応)

① 災害時に必要となる道具・備品・非常食類の備蓄

② 高齢者等が入居する住戸を記した防災用名簿の作成

③ 災害発生時における居住者の安否確認体制の整備

④災害発生時における被害状況・復旧見通しに関する情報の収集・提供体制の整備

| 2018年12月21日 | カテゴリー 災害等への備え