認知症(中) 組合危機、患者も理事
約50世帯のこのマンションでは管理組合の役員は輪番制だった。これまでは問題なかったが、一昨年、思わぬ事態が起きた。役員が回ってきた住民の中に、会話の内容をすぐに忘れるなど認知症とみられる男性がおり、理事長になったのだ。管理会社は「男性は前に役員を務めたことがあり発言力もあった。他の住民が様子がおかしいと思っていても何も言えなかったようだ」と話す。
理事長に就任後、男性は理事会に向けた打ち合わせの内容を何度も管理会社の社員に聞き直し、暴言を繰り返した。理事会後に社員を引き留め、「説明の仕方が悪い」などと8時間にわたって説教したこともある。
男性があまりに会話内容を忘れるので、管理会社はその後、理事会はもちろん男性との会話はスマートフォンなどですべて録音。会話の内容は他の理事にも伝えていた。任期は1年で、男性は昨年3月に退任。「ストレスで体調を崩した社員もいた。管理会社として、これ以上続けられないという状況になりかけた」」。男性社員は振り返る。
最近は住民の高齢化や負担の大きさから役員のなり手不足が慢性化。さらに認知症の住民が増え、全国マンション管理組合連合会の川上湛永会長は「今後、運営はさらに難しくなる」と話す。
川上さんは1月、会長を兼務する日本住宅管理組合協議会で、役員らと「管理組合の役員に認知症の住民を受け入れるべきかどうか」を協議した。慎重論もあったが、「家族同伴など条件付きで受け入れる」という結論に至ったという。「認知症の人は社会参加が少なくなりがち、組合活動が社会との接点になる」のが理由だ。
ただ、管理会社からは「認知症の役員がいると現実として負担が増える。協議会の考えは楽観すぎる」との声も漏れる。日本マンション学会中部支部の支部長を務める花井増実弁護士は「他の住民に代わって判断するのが役員の仕事。判断能力がない人を役員にするのは違和感がある」と指摘。「外部役員も入れるなど他の方法も考えるべきでは」と話す。
一方、周囲の理事が支えた例もある。理事会で「認知症は人ごとではない」と受け入れることに。ほかの理事約20人が認知症サポーター養成講座を受け、80歳代の男性理事と一緒に活動した。
岡管連から
マンションの築年数が30年以上経過すると、マンションの維持管理面と、住民が生活するうえでの医療・介護など健康面という二つの面が同時に訪れます。これがいわゆる『二つの老い』です。
この二つの老いは、管理組合の運営上、様々な支障をきたす恐れがあります。
例えば、総会の定数不足による意思決定ができない、役員のなり手不足による理事会運営ができない、管理費等の滞納、ゴミの排出ができない、孤独死・孤立死など、その結果、マンションのスラム化、資産価値の低下など。