1 事実の概要
本件は、複合用途型マンション(1階~3階事務所、4階以上は居住)の区分所有者Xが、同マンション
の区分所有者Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、Yが同マンションの共用部分を第三者に賃貸して得
た賃料のうちXの共有持分割合相当額の金員、およびこれに対する遅延損害金56万8千余円等の支払を求
めた事案です。
Yは、携帯電話会社Aとの間で自己の専有部分並びに共用部分である塔屋および外壁等をA社の携帯電話
基地局とする目的で月28万余円で賃貸契約し、アンテナの制御機器等はYの専有部分に、アンテナの
支柱、ケーブルの配管部分等は共用部分に設置され、共用部分の使用の対価に相当する部分は月12万余円
でした。
なお、本件マンションには、バルコニーについては各バルコニーに接する建物部分の区分所有者が、
搭屋、外壁については事務所所有の区分所有者が、無償で使用することができ(本件規約9条1項、
2項)、また、無償使用が認められる以外の共用部分の修理、保守、管理は、管理者において行なう
(同12条1項)旨の本件規約の定めがありました。
2 裁判所の判断理由の比較と問題点の所在
第一審では、
①共用部分の無償専用使用権限が認められる対象物に、本件携帯電話基地局設備が含まれるので不当利
得は生じていないと判示しましたが、
原審では、
上記①を否定し不当利得は生じているとし、
②法19条に規定される共用部分の利益の帰属主体と、それを侵害された場合の請求主体は異なるとし
て、
③法26条の規定が設けられている趣旨から、共用部分の管理については、団体規制に服するべきだと
判断しました。
これに対して、最高裁では、
まず、原審同様に、上記①を否定し不当利得は生じているとし、
④共用部分についての不当利得返還請求権は、原則的には各区分所有者が行使できるのが相当であると
した上で、規約や集会決議で団体のみが行使できる旨を定めることができ、この場合には各区分所有
者は、その団体規制に拘束されるので請求できないとし、
⑤また、団体の執行機関として管理者の定めがある場合には、管理者がその請求主体であるとします。
本件については、管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させること
ができる旨の定め(本件規約12条、9条)があるとして、各区分所有者の請求を棄却しています。
(著)創価大学法科大学院 教授 花房 博文
(岡管連から)
参考として、不当利得返還請求に関して、標準管理規約第67条第3項を添付いたします。
第67条(理事長の勧告及び指示等)
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等
以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、
次の措置を講ずることができる。
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他
法的措置を追行すること
二 敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分
所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること