理事の責任
参考判例:東京地判平成27年3月30日
1 事案の概要
マンション管理組合の会計担当理事Dが長年にわたって管理費等を着服横領していたため、管理組合は(Dに対する請求認容判決を得た後)、当時の理事長A、会計監査役員B、副理事長Cに対して善管注意義務違反を理由に損害賠償請求しました。
2 判決内容
① 理事長Aは、収支決算報告をすべき最終的な責任者であり、Dが作成した収支決算報告書を確認・点検
して適正に行われていることを確認すべき義務があったにもかかわらず、定期総会の直前にDから簡単な
説明を受けるのみで、本件預金口座の通帳の残高を確認することさえしなかったのであるから善管注意義
務違反が認められる。
② 会計監査役員Bは、Dが作成した前年度の収支決算報告書を確認・点検し、会計業務が適正に行われて
いることを確認すべき義務があったにもかかわらず、偽造された残高証明書を安易に信用し、確認が容易
である預金通帳によって残高を確信しなかったのであるから善管注意義務違反が認められる。
③ 副理事長Cは、Dの横領行為につき予見して何らかの措置を講ずべきであったとはいえないとし、善管
注意義務違反を否定した。
3 管理組合の対応
善管注意義務とは、「委任を受けた人の職業、地位、能力等において一般的に要求される平均人としての
注意」を言うと説明されていますが、これだけではどのような場合に責任を問われるのか大変曖昧です。
管理組合の理事(役員)は。区分所有者が輪番制により就任している場合も多いと思います。そして、ほ
とんどの者が他に職業を持っており、管理に関する専門知識もなく、強力な権限が与えられているわけでも
ありません。役員報酬が支払われている場合もありますが、その額は費やしている時間や労力に対する評価
からは程遠いのが通常です。これらの事実から、ここでいう善管注意義務は、専門家としてではなく通常人
としての普通の注意義務を指すといえます。
上記判例は、簡単な確認行為さえ取っていれば容易に不正を把握できたのに漫然と放置していたという事
案であり、通常人としての普通の注意を欠いていたといわざるを得ません。とはいえ、ボランティア的役員
活動であることから過失相殺の法理を類推して大きく減額し、あまりに不当な賠償義務が生じないように配
慮されています。
管理組合としては、管理会社または一部の役員に管理業務を丸投げしないように、区分所有者の共同管理
意識を向上させて積極的に参加協力させる工夫が必要です。
(注)下線は、こちら側で記載。
(岡管連から)
この事案は、会計担当理事を含む一部の役員が長年就任していて、かつ当該会計担当理事に任せっきりにしていたことが大きな要因です。
組合員を含め無関心でいると、管理組合にとって、後で取り返しのつかないことが大きく降りかかってきた事案です。