5 災害発生時の応急的な修繕に係る意思決定ルール
本来管理組合の意思決定は、総会決議でなされます。
しかし、災害等が発生したときには、組合員や役員の所在が不明となったり、会議に参集することが困難
となったりして、通常の意思決定システムが機能しないケースが想定されます。
そこで今回の改正では、災害等が発生し応急的な修繕工事の実施が必要となった場合の意思決定システム
として、次のような対応が規定されました。
① 原則は理事会の承認
今回の改正で、災害等により総会の開催が困難である場合には、給水・排水、電気、ガス、通信といっ
たライフライン等の応急的な更新等の応急的な修繕工事等を、理事会の決議で実施することができるとし
ました。そして、当該工事を実施するために必要な資金の借入れや、修繕積立金の取崩しに関しても理事
会決議で行うことができるとしているところです。
② 理事長による対応(①ができないとき)
しかし、役員が集まれないなどで理事会の開催すら困難な場合には、保存行為を超える応急的な修繕行
為の実施までを理事長単独で判断し実施できるとし、その費用の限度額を規約で定めておくという考え方
が示されています。
③ 区分所有者による対応(①・②ができないとき)
さらに、災害等の場合には、理事長も対応できない場合も考えておかなければなりません。
区分所有法では、「保存行為」については各区分所有者がそれぞれ実施することができる旨規定されて
いますが、各区分所有者が独自の判断で保存行為ができるとすると、保存行為の範囲が不明確であること
と相まって、過剰な対応により他の区分所有者の意向に反してしまい、後日の紛争となりかねません。
応急的な修繕工事であればなおさらその危険が高まります。
そこで、今回の改正では、「あらかじめ定められた方法により選任された」区分所有者等の判断によ
り、保存行為や応急的な修繕行為を実施できる旨を規約で定めておくという考え方も示されました。
(著)佐藤貴美法律事務所 弁護士 佐藤 貴美