低層階が浸水・・・あの日の「分泊」とは/朝日新聞10・26
台風19号が首都圏に近づいた夜。東京23区のあるマンションで、小さな試みがあった。
浸水した低層階の住民を、上の階が受け入れて自宅に泊めてあげる。
名付けて「分泊」。成否のカギを握ったのは、日頃の住民の付き合いの深さだ。
周囲が暗く、暴風雨がうなる。「孤立してしまったようです」。
理事が119番に助けを求めると、「いま避難所に行くのは危ない。
3階以上で水か引くまで待機して」と指示が返ってきた。
2階まで含めれば、避難すべき住民は20世帯近くにのぼる。
「3階以上へ」と言われても。どこへ行けばいいのか。
「だったら、うちに泊まりませんか」。一緒に対応にあたっていた住民から自然と声があがった。
住民の多くが10年以上前からの入居者で、顔見知りがほとんど。
管理組合の活動や、子どもが小さい時の地域活動などを通じて交流もあり、受け入れ先は次々と決まった。
「知り合いがいない」という人は、空き部屋がある理事の家で受け入れることにした。
都市の災害対策に詳しい中林一樹・明治大学特任教授は、「上層階に避難することは最後の手段ではあるが、身も守るのに有効だ。
円滑な避難には、災害が起きる前からの住民同士の交流が重要。
管理組合などは、低層階の受け入れ先や避難させてもらった後の謝礼などの具体策を率先して考えておくことが必要だ」と話した。