共用部分の「保存」と「管理」
2 具体的な判断基準
以上、共用部分の「保存」と「管理」の意味について説明しましたが、その意味は、相対的で抽象的な
ものであり、具体的にはどのような要素を勘案して共用部分の「保存」に当たるのか、「管理」に当たる
のかを判断すればよいのでしょうか。
先に説明したとおり、共用部分の「保存」に当たると解するためには、緊急を要する場合のほかに、比
較的軽度の維持行為であることが必要となります。
比較的軽度の維持行為であるか否かを判断するに当たり、一応の目安として、月々の管理費で賄える範
囲内のものが保存行為に該当し、そうでないもの、すなわち、修繕積立金を取り崩す必要がある修繕や分
担金を要する修繕は狭義の管理行為に該当する考え方があります。
具体的な例示として、共用部分であるエレベーターの点検や階段室等の破損個所の小修繕行為は保存行
為に属するが、共用部分の塗装工事等は狭義の管理に属するとしています。
このような考え方を参考にして、先に紹介した判例を見てみますと、同裁判例において管理者たる理事
長が締結した契約は、マンションの現状を調査して報告書にまとめ、それをもとに改修工事の設計を行い、
施工会社の選定を行い、設計管理を行うとの内容のものですから、必ずしも緊急性を有するものとはいえ
ず、また、比較的軽度の維持行為ともいえないものであることに照らすと、管理者の成し得る保存行為と
はいえないものと考えられます。
また、同裁判例で原告会社らがその業務を完了したとして被告マンション管理組合に請求した報奨金は
144万2,700円であり、当該マンションの規模が明らかでないため断言はできないものの、月々の
管理費で賄える範囲の修繕ではなかった可能性が高く、この点からも管理者の成し得る保存行為とはいえ
ないものと考えられます。
(著)みどり法律事務所 弁護士 厚井 乃武夫