建て替えの「天国」と「地獄」
戸数を増やせるか否か
東京都渋谷区・元代々木。小田急線・代々木八幡駅から徒歩4分ほどのエリアに「アトラス元代々木」がある。
建て替え話が持ち上がったのは05年頃。配管が古くなり、漏水のトラブルが頻発したからです。管理組合の理事会で建て替えの声が上がり、コンサルタントを入れ、協議を始めました。当初は、小さい物件ということでデベロッパーに協力を断られ、住民が施工会社や設計者などを個別に探して契約する「自主管理建て替え」に話がまとまりました。
ところが、リーマンショックが日本経済を直撃する。当時の建て替え収支計画では、建設費として各所有者につき2000万円強かかることが明らかになった。
費用が2000万円に収まったのは、容積率にいくらか余裕があり、戸数を30戸から38戸に増やせる見込みが立ったからだ。こうして建て替えで増える面積のことを「余剰床」と呼ぶ。さらに、立地もよく、建て替え後には増えた部屋が高額で取り引きされることが想定できた。その分、住民の負担が軽くなっていた。「住民に裕福な方が多かったのも大きかった。稀有なケースだと思います。さらに『元代々木住宅』は、東京都住宅開発公社が供給したもの。物件への当事者意識や問題意識が高い。それもよかった」(関係者)
このように、建て替えが成功する物件には明確な「条件」がある、と言うのは住宅ジャーナリストの榊淳司氏である。
建て替えが成功するのは、マンションの容積率に比較的余裕があって建て替えによって新たに部屋をつくることができ、それを売ることで、元の居住者の負担がゼロになるケースです。実際、これまで建て替えに成功した事例は、元の居住者の負担がゼロだったものがほとんど。場合によっては、工事中の仮住まい、引っ越し費用まで出ることもある。逆に負担が多い場合には、厳しいと考えたほうがいい。
好立地、好条件の物件が基本的には建て替えを成功させていく一方、建て替えのタイミングを逸したマンションの中には、ボロボロの「限界マンション」となっていくものもある。
埼玉県坂戸市にある3階建てのマンションは、朝日新聞に、建て替えや解体ができない物件として報じられた。築40年で、1階部分にはツタが絡まり、一部は2階にまで伸びている。階段は茶色い錆に覆われてボロボロ、いまにも崩れ落ちそうだ。
「分譲当時から管理組合が機能しておらず、建て替えの話などが出ることなく、ここまできてしまったようです。」(全国紙社会部記者)